つまらない映画を観ているときや、退屈な会議中についつい欠伸(あくび)をしてしまい気まずい雰囲気にしてしまった…なんて経験が皆さんにはありますか?
大きなあくびをすると疲れが取れて気持ちもやすらぐことは、多くの人が経験的に知っていることです。しかし人前であくびをすることは一般的に「失礼」にあたります。不謹慎で相手を軽視していると思われてしまいがちだからです。今回はそんな“あくび”のメカニズムと意外な役割についてお話をしたいと思います。
「あくび」は、眠くなったときや退屈したときに反射的に起こります。口を目いっぱい大きく開けて息を深く吸い込み、続いて素早く息を吐き出すとともに、腕や脚を大きく伸ばす動きなども加わります。
漢字で書くと「欠伸」ですね。語源の一説ですが、「欠」は口を大きく開ける動作を表す象形文字、これに「伸」を付け、あくびの特徴的な動作を表しているといわれています。とはいえ、あくびについては、その原因や意義などメカニズムがきちんと解明されているわけでありません。さまざまな研究チームが色々な説を発表しています。
まず、あくびの働きについて最も一般的な説明は、脳の活性化です。眠気や退屈感があくびを誘うのは脳の働きが鈍くなってきた証拠と考えられています。そこで、口を大きく開けて空気を深く吸い込み、新しい酸素をたくさん補給した血液を脳に送り込んで脳の活動を活発にさせるというのです。
口を大きく開けると顔の筋肉が伸縮して脳を刺激します。腕や脚を大きく伸ばす動作にも同じ効果が考えられます。脳の働きを活性化させるには目や耳、皮膚などの感覚的な刺激に加え、筋肉からの刺激も必要とされているのです。
また、精神的な緊張にさらされたときにも、あくびが出ます。大事な会議でプレゼンテーションする前とか大勝負に臨むときなどには、生あくびが出がちです。これは緊張を緩めて脳の働きを高めようとする自然な現象とされています。
2つ目の説としては、あくびが脳の温度を下げる役割をしているというものです。メリーランド大学歯学部のゲイリー・ハックとプリンストン大学のアンドリュー・ギャラップの共同研究によれば、あくびによって上顎洞の仕切り壁が動いて脳に空気を送り込んで温度を下げるというのです。
ギャラップ氏は、ネズミの脳にセンサーを埋め込み、あくびの前と最中とその後で脳の温度がどのように変化したか記録するといった研究を行いました。すると、あくびの直前に脳の温度が急上昇しそれから温度が降下し始めて、最終的にはあくび前の脳温度に急降下することを発見したのです。
脳は人間の身体の中で3番目に多くカロリーを消費する器官で熱も多く排出します。ちょうどコンピューターのように温度に対して非常に敏感で効率よく機能するには低い温度を保たなければならなりません。そのため脳の温度上昇によってあくびが引き起こされ、「実際に脳の冷却を促進する」というのです。
あくびには謎が多く、その原因や意義などメカニズムがきちんと解明されていません。しかし、太古の昔からさまざまな生き物が生き残るための肉体の仕組みとして、あくびは存在していたのかもしれません。
普段、意識することなく出てしまう“あくび”にそんな可能性が秘められているなんて、とても不思議な感じがしますね。